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不安定な必須微量元素セレンの安定な生体貯蔵法 セレン欠乏に対する安定なセレン代謝利用の分子機構

【本学研究者情報】

〇大学院薬学研究科 代謝制御薬学分野
准教授 外山喬士
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 食品から摂取した必須微量元素セレンは、肝臓でセレノプロテインP(注1)という分泌タンパク質に変換されます。
  • 血中のセレノプロテインPは受容体ApoER2を介して受容細胞内に取り込まれて蓄積し、セレン欠乏時に長時間利用されます。
  • セレノプロテインP・ApoER2システムは、セレン欠乏時の酸化ストレス(注2)耐性維持に関与することを明らかにしました。

【概要】

セレンは様々な食品に含まれており、必須微量元素として生体内恒常性維持に役立っています。しかしセレンは適正な摂取範囲(至適範囲)が狭く、欠乏すると男性不妊や神経障害の原因となり、過剰となると毒性を示し生理機能不全の原因となります。

東北大学大学院薬学研究科の市川敦也大学院生、外山喬士准教授、斎藤芳郎教授らの研究グループは、生命体がセレン代謝のバランスを維持・調節する仕組みを解明しました。

摂取したセレンは肝臓でセレノプロテインPという分泌タンパク質に作り変えられ、血液中に分泌されます。研究グループは、このセレノプロテインPは、受容体ApoER2と結合して組織・細胞の中に取り込まれることを以前報告しました。今回、研究グループは新たに、セレノプロテインPがリソソーム分解(注3)されてセレンが利用されるまでに細胞の小胞内に安全に保存され、徐放的な細胞内貯蔵セレン源として代謝利用される現象を見出しました。このような機構はセレン欠乏時に有用性が強く発揮され、酸化ストレスに対して長期間の防御・保護効果を発揮することが明らかになりました。

本知見はセレン不足に対抗する予防法提案だけでなく、セレンの代謝過剰は悪性腫瘍の薬剤抵抗性や、メタボリックシンドロームの発症に関与するため、新たな創薬標的となる可能性があります。

本成果は5月5日、学術誌Redox Biologyに掲載されました。

図1. ApoER2を高発現 (OE) させた細胞におけるSePの取り込み (緑色がセレノプロテインP ;SePの細胞内貯蓄小胞を示す) 。

【用語解説】

注1. セレノプロテインPは肝臓で合成される血漿中の主要なセレン源である。一分子に10原子のセレンを内包する特殊なタンパク質である。過剰だと糖尿病悪性化の一因となるだけでなく、悪性種における局所的なセレン代謝亢進と治療抵抗性獲得にも関わる。

注2. 酸化ストレスは、酸素呼吸に伴う活性酸素種などの発生を原因として生じ、これが生体分子を攻撃することで生体機能障害を引き起こす。酸化ストレスの増加は、各種毒物の有害作用、炎症や老化の一因であると考えられている。一方で、酸化ストレスを活用した悪性腫瘍治療法も開発されている。

注3. リソソームは加水分解酵素などを豊富に含むオルガネラであり、細胞内外の不要物を分解するゴミ処理場 (リサイクル場) である。オートファジーによるタンパク質分解にも関わり、細胞質に放出されたアミノ酸が代謝利用される。セレノプロテインPもリソソーム分解され、細胞質へセレノシステインを供給すると考えられている。

【論文情報】

タイトル:The selenoprotein P/ApoER2 axis facilitates selenium accumulation in selenoprotein P-accepting cells and confers prolonged resistance to ferroptosis
*責任著者:東北大学大学院薬学研究科 准教授 外山喬士、教授 斎藤芳郎
掲載誌:Redox Biology
DOI:10.1016/j.redox.2025.103664

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問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科 准教授 外山喬士
TEL:022-795-6871
Email: takashi.toyama.c6*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科 総務係
TEL: 022-795-6801
Email: ph-som*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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